新型コロナウイルス感染症(covid-19)の感染拡大が始まって一年あまりが過ぎた。各国においてワクチン開発が異例の速さで進められ、ワクチン接種も拡大しているが、一方で変異型株も次々と出現し、いまだコロナ禍の終息を見通せない状況である。
わがアジア教育史学会も、二〇二〇年三月の定例研究会は中止となり、二〇二〇年度大会および定例研究会はオンライン開催となった。研究発表・交流の機会が激減したことは、とくに博士学位取得を目指す若手研究者にとっては痛手である。ただ、年度後半になると大学でオンライン授業が広くおこなわれるようになり、各学会でオンライン会議が開始されるようになり、わが学会も、十一月に中国浙江大学と共催で教科書に関する国際シンポジウムを開催し、二〇二一年三月にはオンライン定例研究会を開催するに至った。この間の事務局長や常任理事各位の模索・対応には敬意を表したい。
コロナ禍はいずれ終息するだろうが、コロナ後の学会運営の方法は以前に戻ることもないだろう。上記オンライン国際シンポジウム、定例研究会はいずれも盛況となった。国際交流や全国各地の会員の交流手段としてオンライン形式は今後不可欠になるだろう。本学会が国際交流の日本側窓口として海外から認知されることを期待したい。
ただ、もちろんオンライン学会はデジタルディバイドへの配慮を忘れてはならない。また、研究会後の情報交換会・懇親会の重要性も無視できない。学会・研究会の開催は、報告・討論だけでなく、「場外」でおこなわれるさまざまな交流が、新たな研究を生み出すことになる。したがって、これからは対面・オンライン双方の利点を活かした2方式併用のハイブリッド型大会・研究定例会が「新常態」となり、これによって海外研究員との連携もより密接になっていくだろう。
現在の事務局・常任理事は、コロナ禍以前からデジタル化・会務の簡素化に努めてきた。今後、『アジア教育史研究』掲載論文もJ-STAGEですぐに閲覧できるようになる。その分、会員であることの特典を別に付与する必要がある。若手研究者の就職難が話題となり、大学院への進学者の減少が問題となって久しい。その一方で、斯界においては、中国人留学生を中心に教育史、とくに留学生史に取り組む外国人留学生が増えている。いわば学会の内なる国際化と対外連携の「外なる」国際化が同時進行している。学会のあり方、会員のあり方も、コロナ禍以前のこうした趨勢に対応しなければならないだろう。
さらにコロナ禍で気づかされた問題がある。衛生教育はもちろんのこと、人的交流の途絶で痛感させられたアジア相互の教育交流史の問題、あるいは通信教育、ラジオ・テレビ・インターネットなどメディアによる教育なども研究テーマとして注目してよいのではないか。
以上、思うままに述べたが、これだけの打撃を与えたコロナ禍である。コロナ後が単なる復旧では割が合わない。これが学会と学界の活性化の契機となることを期待したい。
2021年4月1日
アジア教育史学会・会長・高田幸男